何故渡辺通5丁目にはお寺が密集しているのか

日本には非常に多くのお寺が建っています。現在でも寺町と呼ばれる地域があることからわかるように、昔から寺院と人々の生活は密接に結びついていました。中央区渡辺通りを通る寺町通りもその一つで、現在も3戸の寺院が軒を連ねています。

お寺はコンビニより多い

日本にはコンビニより多くのお寺がある

皆さんの住んでいる地域にお寺はありますか?

街を歩けばそこかしこに見ることのできるコンビニですがその件数は全国で5万5千軒ほど。それに対してお寺はなんと7万7千寺も建っています。仏教が伝えられた6世紀ごろから1600年代の江戸時代に新寺建立禁止令が発布されるまで際限なく建てられ続けました。明治時代の初めに廃仏毀釈が行われる前には全国10万ヵ寺ともいわれていました。(諸説あり)

福岡市内にも寺院の林立ぶりを実感できる場所があります。中央区渡辺通りと春吉を分ける寺町通りにはその名の通り、柳光山妙徳寺、法光山専立寺、四王山建立寺と3寺の立ち並ぶ地域が存在します。

何故、50m程の短い区間に3寺もの寺院が隣り合って建立されたのでしょうか。それぞれの伽藍をみながらその理由を探っていきましょう。

柳光山妙徳寺

平成28年に改修された新しい本堂

平成27年に改築された真新しい本堂が美しいこちらの寺院は柳光山妙徳寺です。建立時期は慶長年間(1596年~1615年)とはっきりしていません。開山は釈禺という僧侶でもともとは薬院警固(現警固神社付近)に建てられた寺院でしたが2代目藩主・黒田忠之の時代に警固神社が移築されるに伴い、春吉村(現渡辺通り)に移築されました。

龍の彫刻がとても細かい
狗と龍の彫刻

本堂の梁には龍や狗があしらわれています。龍は仏教において釈迦の説法を守る役割があるとされており、龍神として祀るお寺も多くあります。

4階建てのアパートくらいの高さがある

本堂裏手には納骨堂が建てられています。こちらも本堂と同時期に新築されました。隣接する3寺に共通する特徴として、敷地が縦に長くなっています。その為、壇家ではない一般の参拝客は本堂までしか入ることができませんでした。

山門が無い珍しいお寺

妙徳寺の特徴として、山門や大門と呼ばれる門が無いことが挙げられます。これは一切衆生が仏門に入ることを拒まないという仏の寛大な心を表す造りであると言われています。門があって常時開放している寺院も同様です。

妙徳寺では定期的に仏教講演会として、僧侶ではない仏教徒の方の講演を行っています。仏教徒として社会生活を送っている方の実体験を聞くことができるので仏教に関心のある方におすすめです。

法光山専立寺

うってかわって年季の入った本堂

妙徳寺の隣に建っているのが同じく浄土真宗本願寺派の法光山専立寺です。慶長16年(1611年)に西済を開山として建立されました。西済は元は岡山の僧侶でしたが福岡藩初代藩主・黒田長政の人徳を慕い、長政が関ケ原の戦いの功によって福岡52万石を賜り筑前国に入る際同行、唐人町に居を構えました。その後専立寺を建立することとなります。専立寺はもともと妙徳寺と同じく薬院警固にありましたが警固神社移築の際に現在の位置に移築されました。

扁額が山号じゃないのも珍しい

本堂に掲げられた無量寿というのは量りきれないほどの命という意味で阿弥陀如来の別名とされています。これは阿弥陀如来が無限の命を持つという意味ではなく、阿弥陀如来が生きとし生けるものすべてを慈しむことから阿弥陀如来が慈悲を働くべき命は無限にある、という意味を持っています。

学校の施設みたいな造り

本堂横から敷地いっぱいに続く講堂兼納骨堂では仏事や講習会が行われます。入り口横には小規模ながらも美しく手入れされた書院式庭園がありました。

鐘楼ではなく本堂に梵鐘があるのも珍しい

専立寺は本堂内に梵鐘を構えるという珍しい造りをしています。この梵鐘は平成2年に韓国の西願寺から友好の印として贈られたもので、日本の梵鐘より凹凸の少ない形が特徴です。毎年大晦日になると本堂が一般開放され、参拝客が除夜の鐘を撞くことができます。海外の方からも人気の催しで毎年世界各国から30名程が鐘を撞きに訪れるそうです。

四王山建立寺

境内の一番奥にある本堂

寺町通り3寺のうち一番天神側に位置するのが四王山建立寺です。元々瓦田村(現大野城市瓦田)にあった天台宗の寺院が浄土真宗へ改宗したうえで寛永初暦(1621年)に春吉村へと移築しました。移築した際の開山は格傳という僧侶ですがそれ以前の記録は火災により一切残っていません。

こっちが本堂かと思った

境内に入り最初に目にするのはまるで本堂のような風格を備えた寺務所です。外部の催しの会場として提供されており、飲食店主催の食事会や音楽ライブ、華道教室などが行われています。ホールには卓球台もあり、近いうちに地域の子どもを対象とした卓球教室を始める予定だそうです。

親鸞像があるのは建立寺のみ

本堂横には浄土真宗の開祖・親鸞の立像があります。横に並ぶ3寺はすべて浄土真宗の寺院ですが親鸞像があったのは建立寺のみでした。

今でいうチャイムみたいなもの

本堂には喚鐘と呼ばれる勤行や法会など仏事の開始を告げる小型の梵鐘が下げてありました。元々寺院が発祥の喚鐘ですが時代と共に一般民衆にも広がっていき、茶道で招待客を呼ぶ際や火事の報知にも使われるようになりました。

取材を終えて

寺町通りの3寺はほぼ同時期に現在の場所に移築されました。そこには、福岡藩2代目藩主・黒田忠之の時代に春吉が農地から足軽の宅地となったことで人口が急激に増え、当時戸籍管理も担っていた寺院が多く必要になったことと、警固神社が福岡城付近から現在の場所に移築されたため、近辺の寺院も移築を余儀なくされたという2つの理由があります。

寺院が多く立ち並ぶ地域は大阪の天王寺区や東京の谷中など多くありますが、このようにきちんと区画整理がされ支院(大本の寺院の周りに建つ分舎)ではない寺院が並ぶ光景は全国的にも珍しいので通りかかった際はぜひ、参拝してみてください。

柳光山妙徳寺
住所:福岡県福岡市中央区渡辺通5丁目7-29
TEL:092-761-1245
宗派:浄土真宗本願寺派

法光山専立寺
住所:福岡県福岡市中央区渡辺通5丁目7-26
TEL:092-761-2282
宗派:浄土真宗本願寺派

四王山建立寺
住所:福岡県福岡市中央区渡辺通5丁目7-24
TEL:092-761-0959
宗派:浄土真宗本願寺派