豪商一家の幼い兄弟を祀る神社/萬四郎神社

福岡市博多区下呉服町に萬四郎神社という小さな神社があります。萬四郎神社では江戸時代の豪商・伊藤小左衛門の2人の息子を祀っています。

伊藤小左衛門は大阪の鴻池、博多の伊藤と並び称された日本有数の豪商でした。黒田藩お抱えの御用商人としてオランダ外交にもかかわっていたとされています。当時銀千貫以上の財産があれば豪商という時代に小左衛門は銀七千貫という莫大な財産を築いていました。

しかし幕末の時代、福岡藩は討幕と佐幕の間で揺れており結局佐幕派に傾いたことで海外との貿易を続けていた小左衛門は鎖国の禁を破ったとして一族もろとも斬首に処されてしまいます。その中には当寺5歳だった三男の小四郎と3歳だった四男の萬之助も含まれていました。2人を不憫に思った博多の人々は祠を建てて兄弟を祀ろうと考えましたが罪人を表立って祀るわけにもいかず、2人の名前を組み合わせ萬四郎神社として祠を建立しました。その後、処刑された伊藤家全員の墓標が建てられ今日に至ります。

境内の様子

昭和通りから福岡都市高速呉服町入口に向かう途中の路地を左折するとすぐ左手に萬四郎神社があります。敷地内には小さな石の祠が二祠と町蔵(町の倉庫)が建っています。

山笠の準備中だった

町蔵には「東流中濱口」と書かれています。東流は博多祇園山笠の東流に所属する地区であること、中濱口はこの一帯が明治時代初期まで中濱口という地名だったことを示しています。

海水と砂が盛られている

鳥居をくぐるとすぐ左側にお汐井台があります。取材時は山笠の行事・お汐井取りの直後だったので筥崎浜の砂が奉納されていました。

水道からホースが伸びている

お汐井台の向かいには手水鉢があります。給水は新しい水道に変わっていますが鉢は建立当時のものが残されていました。


奥に進んだ祠の前には阿形吽形の狛犬があります。この辺りは建立当時海辺だったこともあり、表面は風化が進んでいました。

祠は改修されていた

平成26年に新たに作られたお堂に二祠の祠が建っています。もともと奥の古い祠は町蔵の前にあった稲荷神社ですがお堂を建立した際こちらに移されました。手前の新しい祠に小四郎と萬之助の兄弟が祀られています。

当時は恐らく飾れなかったであろう紋

祠の奥、お堂の壁には伊藤家の家紋が飾られていました。

神様ではなく江戸時代の豪商一家を祀っている萬四郎神社は神社という体を取っていますが実際には伊藤家の菩提寺、お寺のような扱いだったと言われています。しかし、時が経つにつれ神格化され中濱口地域の氏神として祀られるようになりました。

現在では毎年、向かいの濱口公園で夏祭りが催されるなど地域の人々に親しまれる神社になっています。近くを通りかかった際はぜひ、幼い二人の兄弟に手を合わせてみてはいかがでしょうか。

萬四郎神社

住所:福岡県福岡市博多区下呉服町1-28
祭神:伊藤家
アクセス:地下鉄貝塚線呉服町駅から徒歩5分